修復家・美学者: 西洋の修復技術においては、欠けた大理石や陶器の継ぎ目を極限まで不可視化し、あたかも何事もなかったかのように『完全無欠な初期状態』へ巻き戻すことが至上の美徳とされてきました。しかし、室町時代に端を発する日本の『金継ぎ』は、正反対のアプローチをとります。割れた裂け目や欠損をパテで隠すのではなく、あえて漆と純金粉を用いてその傷跡を鮮やかに際立たせるのです。
修復家・美学者: ここにあるのは、傷や挫折を『覆い隠すべき瑕疵』と捉えるのではなく、その器が生き抜いてきた唯一無二の歴史的記憶、すなわち『景色の美』として祝福する思想です。ひるがえって現代社会を見渡せば、私たちは少しでも傷ついたり古びたものを即座に廃棄し、人間関係においても些細な衝突や欠点があればすぐに遮断して新しい代替品に乗り換えてしまう。完全無欠であることを強迫的に求め、傷つくことを極度に恐れるあまり、人間としての陰影や深みを失っているのではないでしょうか。金継ぎが教えてくれるのは、不完全性を受け入れ、壊れた箇所と真摯に向き合って対話を重ねることこそが、以前よりもはるかに強靭で奥行きのある独自の美を生み出すという真理です。